開講報告

平成21年度ポストグラデュエートコース 4コース

失敗しない歯周治療のための最重要ポイントと再生療法入門―臨床例とわかりやすい基礎病理―

   上記の演題で平成22年2月28日に歯周病学会の認定医・指導医で大阪歯科大学出身の著名な畠山善行先生と信藤孝博先生をお迎えして、第4コースの講演会が開かれ、41名の参加者がありました。

午前中9時30分から10時55分迄、信藤先生から「歯周組織の基礎と治癒の生物学的原則」というテーマで講演され、ついで11時05分から12時30分迄、畠山先生が「失敗しない歯周治療のために必要な最重要ポイント」というテーマで講演されました。昼食後、13時30分から14時55分迄、畠山先生が「臨床的立場から見た再生療法入門」というテーマで、又、15時05分から16時30分迄、信藤先生が「歯周外科のためのBlood Supply(血液供給)」というテーマで講演されました。
お二人ともご昵懇の仲で、それぞれの立場でわかりやすく和気藹藹と解説していただきました。

信藤先生はご自身のアクリル樹脂注入法と走査型電子顕微鏡(SEM)を併用した研究をベースにされて、血管の働きを通じて微少循環を重視した減張切開のポイントやGBR及びGTRを成功に導くためのポイントや、遊離歯肉自家移植術の術式のポイントなど臨床の際の注意しなければならない点を詳細に説明されました。

歯周組織の基礎と治癒の生物学的原則としては、

  1. 角化歯肉は重要であり、歯周組織の健康維持には必要である
  2. MIを考慮するならば、減張切開は浅く行うべきである
  3. 結合組織性付着は必要であるが、新生セメント質形成には多くのハードルがある

又、歯周外科におけるBlood Supply(血管を通じた血液供給による組織新生への動き) を考えると

  1. 剥離された粘膜骨膜は術後3日ですでに様々な血管新生の様式により旺盛な血管新生能力を示し、速やかに歯周組織の修復反応を開始する
  2. 術後5日から1週にかけて新生血管が成熟する
  3. 粘膜骨膜は侵襲を与えられる事により、旺盛な修復作用を持つ振り子の様な組織である
  4. 歯肉が剥離されると、粘膜骨膜に分布する血管が増加し、透過性も高まり、骨のリモデリング過程に貢献する

以上が信藤先生の講演の要旨であります。

信藤先生は、遊離歯肉の自家移植や、インプラントなど豊富な臨床例をスライドを見せながら説明されました。
畠山先生は、失敗しない歯周治療のための最重要ポイントとして

  1. モチベーション
    術者自身及び患者へのモチベーション
  2. 正しい診断
    治療法は多数存在するが正しい診断は一つしかない
  3. 正確な臨床手技の獲得
    • スケーリング、ルートプレーニング
    • 歯周外科
    • 一般保存修復、補綴処置、その他
  4. メインテナンス
    プラークコントロールの継続

を挙げられ、それぞれの項目について、細かく説明されました。

モチベーションについては、術者自身がしっかり長期的に歯牙を持続させる意志を持つこと、又、患者へのモチベーションについては、磨いた事による効果を患者が実感することが重要である。

正しい診断については、診断を下す為には、正確な診査を十分に行い、資料を揃える必要があるとされた。
資料とは、全顎X線写真、ペリオ・チャート、歯列模型、咬合診査、口腔内写真、等である。又、正しい診断を下すには、時間の経過とともに真実が分かる事があるので、様子をみる事も大事だとされた。

次に正確な臨床手技の獲得として
まずスケーリング・ルートプレーニング(SRP)について説明され、SRPによっても骨の回復が可能な場合もあるが、深い歯周ポケットや、根面の形態等よっては限界がある。

初期治療におけるポイントとして

  1. プラークコントロールのシステムを確立する
  2. 原因をはっきりと示し、正しく磨くことの難しさ重要性を教える事が第一
  3. 長時間をかけてじっくりと繰り返しながら徐々に正しい磨き方を習得できるようにする。

歯周外科のテクニックとして

  1. modified Widman flap
  2. apically positioned flap
  3. 再生療法

について、術式及び長・短所について説明された。

MWF(1)とAPF(2)の違いについては、術式及び術前、術後の骨や歯肉の状態まで、詳細に説明された。

3の再生療法については

  1. 骨移植
  2. GTR
  3. Emdogain

について、術式及び術後の臨床例を見せながら説明された。
又、インプラントを歯周治療における新しい戦略にあげられました。手術後のプラークコントロールが非常に重要でメインテナンス及びリコールをしながら、手術後の歯肉や骨の形態変化の傾向を把握しながら行う。
以上が畠山先生のご講演の内容の要旨であります。

畠山、信藤両先生とも、歯切れよく難しい内容をわかりやすく説明していただいて、受講生一同本当によく理解できました。受講生からは「是非ハンズオンでして欲しい」という要望もありました。両先生の熱い講演で一日があっというまに過ぎてしまいました。
畠山先生、信藤先生、本当に有難とうございました。

ポスト委員長  藤 野  明