平成29年12月10日、本学天満橋学舎7階共用会議室において標記講習が行われた。
従来より顎関節症をはじめとする顎口腔領域の疼痛や違和感等、一種の不定愁訴と思われる症状に対して、われわれは非常に無力である。咬合治療やペインクリニック等の非常に専門性の高い医療行為との認識があり、多くの来院患者に適切な処置・指導が行えないジレンマがある。今回はこの分野に造詣の深い日本歯科大学附属准教授 顎関節診療センター長である原 節宏(はら せつひろ)先生をお招きし、「マイクロストレッチ○Rで対応する歯科的不定愁訴(演習付き)-不調・違和感・原因不明の疼痛に対処する-」と題して、非常に有益な講習会が開催された。
まず、不調・違和感のとらえ方に関して「筋膜の機能不全」をもとに、交感神経を賦活させる必要性につき解説があった。また、顎関節症の概念の変遷に基づき、咬合の違和感に関しても解説があり、様々なエビデンスから現在、顎関節治療で最優先されることは非侵襲的なケアであり、経過観察、咬合治療、スプリント療法などの弊害についてスライドをもとに解説された。国際歯科学会(IADR)での調査では顎関節症の原因の78%を「筋膜痛」がしめていると言われていて、筋膜痛の制御が非常に重要である旨、お話があった。また、従来提唱されていたトリガーポイント仮説について診察・検査法の解説があり、筋膜が経年的な形態変化を生じている場合、皮下脂肪や神経線維、コラーゲン線維などの機能低下が引き続いて発現し、筋細胞に影響を及ぼすという悪循環がみられ、それらを改善するには、各種神経受容器への圧刺激(オロフェイシャルリリース・マイクロストレッチ)がきわめて有効で、筋膜リリースを惹起させることで不定愁訴の緩和に寄与するとのことである。
その後、筋血流や筋膜痛の病態についての解説や、筋膜マッサージの実践・アロマ療法の併用効果などの講義のあと、各自ヨガマット・アロマオイル・テニスボールを用いて筋膜リリースの実習を行った。原先生ご監修のDVDを見ながら、受講生自身がゆっくり・しっかりしたセルフケアを行った。非常に丁寧にインストラクションしていただき、今後の歯科臨床においてわれわれでも取り組める、ということが実感できた講習会であった。
当日は19名の受講生が講習を修了し、非常に満足感の高いコースとの評価で、本学同窓会が主催するポストグラデュエートコースのバリュー感を再認識した1日であった。
(PGC委員会副委員長 大35回 杉岡伸悟 記)